「Fable 5.1にしたけれど、そこまで変わった気がしない」——公開から数日、よく見かける感想です。
実は、その理由に当たることが、開発元のAnthropic社の公式ドキュメントに書かれています。「より単純なワークロードだけでテストすると、その能力の幅を過小評価してしまう傾向があります」。
変わったのは性能だけではありません。頼み方の前提が変わりました。指示追従が上がったぶん、これまで有効だった「細かく書き込んだ指示書」が、足を引っ張る側に回っています。
この記事では、Fable 5系専用の公式プロンプティングガイドから、今日すぐ設定を変えられる5点だけを抜き出します。9月1日に何が公開され、ベンチマークと料金がどう動いたのかは、前回の記事で整理しています。
① エフォートの既定値は、使う場所で違います
まずここです。「同じ5.1なのに手応えが違う」の多くは、これで説明がつきます。
Anthropic社は発表ページに、こう明記しています。エフォート(がんばり具合の設定)の既定値は、Claude Codeでは High、Claude Cowork と Claude.ai では Medium。段階は low / medium / high / xhigh / max の5つです。
たとえば、Claude.aiで「この資料を読んで要約して」と投げて「まあこんなものか」と感じた方。それはMediumの5.1を見ています。同じ依頼をClaude Codeに投げれば、既定でHighです。感想を持つ前に、どちらの設定で試したのかを先に確認する必要があります。
- ほとんどのタスクは high を既定にする
- いちばん能力が要る仕事だけ xhigh へ上げる
- 定型作業は medium か low へ下げる
- 低いエフォートでも、多くの場合、従来モデルの xhigh を上回る
逆に、下げる合図も書かれています。完了はするのに、必要以上に時間がかかっているときです。
たとえば、決まった様式への転記、CSVの集計、議事録の整形。こうした「やることが最初から決まっている作業」をHighで投げると、5.1は念のために周辺のファイルまで読みに行き、考え込みます。公式も「高いエフォートでの定型的な作業では、タスクに必要な範囲を超えてコンテキストを収集し、熟考することがある」と認めています。ここは medium へ落とすと、同じ結果がずっと速く返ります。
今日できる確認
「最近やたら遅い」と感じている仕事が、定型作業ではないか。定型なら medium へ落として同じものを投げ直す。品質が落ちなければ、そこが正解です。
② 作り込んだ指示書は、削る対象になりました
5.1移行で、いちばん見落とされているところだと見ています。
公式ガイドはこう書いています。従来のモデル向けに開発されたスキルは、5.1にとっては規範的すぎることが多く、出力品質を低下させる可能性がある。デフォルトの挙動のほうが優れている場合は、古い指示の削除を検討するように、と。
理由は、指示追従が上がったからです。以前は望ましくない挙動を1つずつ潰す必要がありましたが、5.1では各パターンを列挙するのと、短い一文を置くのとで、効き目がほぼ同じになっています。
たとえば、CLAUDE.mdやシステムプロンプトに、こんな行が残っていないでしょうか。
- 「必ずステップバイステップで考えてください」
- 「実装の前に、必ず計画を提示して承認を得てください」
- 「回答は必ず見出しと箇条書きで構成してください」
- 「省略せず、すべてのファイルを最初から最後まで確認してください」
どれも、能力の低いモデルに「手を抜かせない」ための行でした。5.1では、手を抜かないほうが既定です。残っていると、承認待ちで止まる・不要な網羅に時間を使うという形で、そのまま実行時間に跳ね返ります。
特に外したほうがよい1行
ここは知らないと気づけないところなので、単独で書きます。
公式ガイドは、「モデルに内部推論をレスポンステキストとしてエコー、書き起こし、または説明するよう指示するプロンプト」——つまり「考えた過程も全部書き出して」「なぜそう判断したか思考を見せて」といった指示について、こう説明しています。
Claude Fable 5でreasoning_extraction拒否カテゴリを引き起こし、Claude Opus 4.8へのフォールバックが増加する原因となる可能性があります。
要するに、思考を見せろと書いてあるせいで、リクエストが拒否され、別のモデルに落ちている可能性がある、ということです。「5.1にしたのに前と同じ感触だ」の一部は、これで説明がつくかもしれません。移行時には、既存のスキルやシステムプロンプトに「振り返りや思考を見せる指示」が入っていないか監査するように、と公式が名指しで勧めています。
③ そのまま使える短い指示、3本
公式ガイドに載っている推奨指示のうち、コーディング以外でも効くものを3本、日本語に噛み砕いて紹介します。
境界を決める(頼んでいない作業を止める)
「このエラー、なんで出るんだろう」とつぶやいただけなのに、原因を調べて、直して、ついでに周りも整理して、別のところが壊れている。あの現象です。公式も、5.1が要求されていないアクション(頼んでいないのにメールを下書きする、防御的にgitのバックアップブランチを作る)をまれに取ると認めています。
利用者が問題を説明している、質問している、あるいは考えを口に出しているだけのときは、成果物は「あなたの評価」です。所見を報告して、そこで止まってください。直してほしいと言われるまで、修正に着手しないでください。
停止条件を決める(無駄に許可を求めさせない)
夜に長い仕事を投げて、朝に見たら「この方針で進めてよろしいですか?」で止まっていた。あれを減らす1本です。
利用者に確認を取るのは、その作業が本当に利用者を必要とするときだけにしてください。取り返しのつかない操作、本当の意味でのスコープの変更、利用者にしか出せない情報。この3つに当たったら質問してターンを終え、それ以外は最後まで進めてください。
あわせて、長いセッションでまれに「これからXを実行します」という宣言だけでターンが終わることがある、とも公式は認めています。対処は拍子抜けするほど単純で、「続けて」または「最後までやり切ってください」で足りるとのことです。
進捗を、証拠と突き合わせさせる
3本のうち、いちばん実利があるのはこれです。「テストは通りました」と報告されたのに、実際は走らせていなかった。長時間の自律実行を回したことがある方なら、一度は踏んでいるはずです。
公式ガイドには、この指示によって「捏造されたステータス報告を引き出すように設計されたタスクにおいても、そうした報告がほぼ解消された」とあります。裏を返せば、無ければ起こりうると開発元が認めた形です。
進捗を報告する前に、それぞれの主張を、このセッションのツール結果と突き合わせて監査してください。証拠を示せる作業だけを報告し、まだ検証できていないものは、検証できていないと明記してください。テストが落ちているなら出力とともにそう書き、飛ばした手順があるならそう書いてください。
④ 教訓を貯める場所を、1つ作る
「前にも同じところを直したのに、また同じ書き方で出てくる」。これを減らす話です。
公式ガイドは、5.1について「以前の実行から得た教訓を記録し、それを参照できる場合に特に優れたパフォーマンスを発揮します」と書いています。仕組みはMarkdownファイルで十分だとも明記されています。
- 1ファイルに1つの教訓。先頭に1行の要約を置く
- 修正されたことも、うまくいったやり方も記録し、なぜ重要だったのかまで書く
- 重複は作らず既存を更新する。間違っていたと分かったメモは削除する
「なぜ重要だったのか」まで書く、というのが効きます。「この処理は必ず◯◯を通す」だけだと、状況が少し変われば破られます。「前回、これを飛ばして本番で落ちたから」まで書いてあると、似た場面でも同じ判断ができます。
すでに履歴が溜まっているなら、ゼロから書く必要はありません。過去のセッションを振り返らせて主題と教訓を抽出させ、指定した場所に保存させる、という立ち上げ方も公式に示されています。
⑤ 「なぜ頼むのか」を1行足す
いちばん短くて、いちばん効果が読みにくいものです。公式ガイドは「リクエストだけでなく理由も伝える」という項目を立てて、次の型を示しています。
[誰のために][大きな仕事]に取り組んでいます。相手は[この成果物で何ができるようになる必要があるか]。それを踏まえて、[依頼]。
たとえば「この打ち合わせの記録をまとめて」とだけ頼むと、網羅的な議事録が返ってきます。ここに「来週の会議で、続けるか止めるかを決める材料にします。決まったことと、まだ決まっていないことだけ要ります」と足すと、返ってくるものの構成そのものが変わります。要約の精度ではなく、何を捨てるかの判断が変わるからです。
逆に、意図を書かないまま曖昧な依頼を投げると、5.1は過剰に計画を立てる側に倒れます。公式が「タスクが曖昧な場合に過剰に計画を立てないようにするには」という項目を別に用意しているのは、そのためです。
では、常用モデルを乗り換えるべきか
公式の数字と、実務者の見立てを分けて置きます。
| OSWorld 2.0(コンピュータ操作) | Fable 5 | Fable 5.1 |
|---|---|---|
| 部分点あり(partial) | 72.9% | 77.9% |
| 厳密採点(strict) | 36.1% | 41.7% |
Anthropic社が2026年9月1日に公表した数値です。同社の測定によるもので、第三者が検証した数値ではありません。同社は、本番のセーフガードを有効にして評価しており、セーフガードが介入したタスクは0点になるため、実際より低く出ている可能性があるとも注記しています。
同じ試験の、採点の厳しさを変えただけの2行です。「途中までは、かなりのところまで進む」と「全部の手順が正しく通ったと認められる」のあいだに、まだ倍近い開きがあります。無人で回すワークフローを組むなら、この差のぶんだけ、検証を自分で用意する必要がある、という読み方をしています。③の3本目の指示が効くのも、同じ理由です。
一方で、長時間の仕事での評価ははっきりしています。ブラウザ操作の検証を手がけるBrowserbase社は、公式ページで「最も難しいブラウザエージェントのベンチで、1タスク約10分・82%を完了。Opus 5は74%、Fable 5は57%。トークン消費はどちらより少ない」と述べています。短い往復では、この差は出ません。冒頭の「単純な作業だけで試すと過小評価する」は、そのまま実測に対応しています。
そのため日本語圏の技術者の発信でも、「常用はOpus 5のまま、長時間で難しい仕事だけFable 5.1に投げる」という使い分けが繰り返し語られています。Opus 5がすでに失敗した仕事を、5.1に渡すという順番です。これは公式の見解ではなく、個人・事業者の発信を読んだ範囲での整理です。
まとめ
1つに絞るなら、まずエフォートの既定値の確認です。Claude Codeは High、Claude.ai と Claude Cowork は Medium。「思ったほど変わらない」の何割かは、ここで説明がつきます。
その次に、旧モデル向けに書き込んだ指示書の棚卸し。とくに「思考を見せて」の1行は、拒否と旧モデルへのフォールバックを増やす可能性があると公式が名指ししています。今回に限っては、追いかける先が「性能表」ではなく「自分の設定ファイル」でした。
- Anthropic「Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1」(2026年9月1日)
https://www.anthropic.com/claude-fable-and-mythos-5-1 - Anthropic「Claude Fable 5のプロンプティング」(Claude Platform Docs・日本語版)
https://platform.claude.com/docs/ja/build-with-claude/prompt-engineering/prompting-claude-fable-5
※本文中の指示文は、上記の公式ガイドに掲載されている推奨指示を、さぽマケが日本語に要約したものです。原文は英語で記載されています。
※数値はいずれも公表時点のものです。仕様・既定値・提供状況は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。